泉のひみつ

作:睦月五郎
 





 
−あーあ、遅くなっちゃった、泉のヤツ!おこってるだろうな。−

約束の3時45分は、もう過ぎている。まもなく4時。ヒロは学校からずっと走りっぱなし。もうへとへとである。彼は駆け足は小さい時か

ら早かったが、いくら駆け足が得意でも、全力疾走を10分も続けたら、誰だってバテるだろう。

泉と待ち合わせている場所は、駅前の喫茶店「何処」。彼らはいつもここで待ち合わせて、一緒にコーヒーを飲み、おしゃべりをする。ヒロ

は、息せき切って、店のドアを思いっきり開けた。

カランカランカラン

ドアに取り付けてあるカウベルがけたたましく鳴った。音に反応して、泉が振り返りヒロに気がついた。

「ごめん!待った?」

「もぅ!いったいどうしたのよ!10分も遅くなるなんて!」

泉は、ぷぅーっ、と頬を膨らませて、ヒロを睨み付けた。

「ごめん!帰り間際に、松川原に呼び出されちゃって。」

「松川原って?」

「うちの数学の先生なんだけど、中間試験のことで、えらく油を絞られちゃった。」

「なんで?」

「試験の成績は悪くはないが、ケアレスミスが目立つ、だって。成績には自信があったんだけど、怒られちゃった。ちょっと、ショック。あ、でも、泉との約束時間に遅れたのは事実だから、罰として、今日のチョコパ、僕がおごるよ。」

「ううん、いいよ。そういうことなら、許してあげる。」

「いいから、いいから。遠慮は無用。実はちょっと臨時収入があったんだ。」

「なあに、臨時収入って?」

「昨日、姉貴が帰省してきて、こずかい、もらっちゃった。」

「えーっ!そうなの、いいわねー! じゃあ、ご馳走になるね」

 

ヒロは本名を、山上浩という。現在県立M高校3年生、バドミントン部に所属する元気な男の子。ヒロが生まれた時、母は、名前を浩之、とするつもりだったんだけど、父が町の役場に出生登録に行った時、なぜかしくじって「浩之(ヒロユキ)」、の「之(ユキ)」を記入し忘れて、「浩(ヒロシ)」になったらしい。周りからは「ヒロ」と呼ばれている。

 

泉、はヒロの彼女。名前は高橋泉(たかはし いずみ)。1994年9月27日生まれ。県立Y商業高校1年。プロポーションは、全体的にスリム。顔はやや面長で鼻が高く、美形と言えるだろう。性格は一見おとなしそうだが、実は、とんでもないおてんばな面も持ち合わせている。成績は、それほど優秀というわけではないが、本を読むのが好きな、文学少女である。やや、おっちょこちょいなのが玉にキズ、といったところ。

 

二人はおしゃべりに夢中になって、時間の経つのを忘れた。

泉がふと我に返って腕時計を見ると、もう5時を廻っている。ここは地方の田舎町。電車はローカル線で、夕方の通学時間帯でも1時間に2本しかない。乗り遅れると、30分は待たなければならない。泉は、部活のない日は6時までに帰宅するよう言われている。

「大変、早く帰らなきゃ!」

「電車は15分だよね。よかった、まだ間に合う。急ごっ!」

「泉、さきに出てな!」

「うん、わかった」

ヒロは、チョコレートパフェ二人分の支払いを済ませると、彼女のあとを追った。

 

電車に乗っている時間は、あっという間に過ぎた。

「じゃあ、明日の10時にここね、ヒロ君、遅れないでよ!」

「わかってる、じゃあね。ばいばい!」

明日は土曜日だが祝日なので、学校は休み、部活もない。泉も同じ。

なので、二人で映画を見に行く事にしているのだ。

駅の出札口をでると二人は手を振って別れた。

泉の家は,駅の直ぐ近くにある。ヒロの家は、駅から遠い。バスでも20分はかかる。でも、今は暖かい季節なので、彼は家から駅までバイクで通っている。駅前の小さな商店街を抜けると、一直線の舗装道路が田畑のど真ん中を突っ切って、山のふもとの、ヒロの住む住宅街まで伸びている。見通しの良い一本道なので、他に通行車両がなければ、アクセルを吹かして、スピードを上げて走る。ここちよい風が全身にあたり、とても気持ちいい。ヒロは、ここをバイクで走るのが好きだ。

 

「ただいま」

ヒロが家のドアを開けると、にぎやかな子供たちの声がする。姉の子供たちの声だ。

「おぢちゃん!これみてー!すごいでしょ!!」

おもちゃをもって玄関に飛び出してきたのは上の子の健(けん)。ヒロにとっては甥にあたる。姉は、幼稚園に通っている健が夏休みに入ったので、仕事で休めないダンナを一人置いて、帰ってきたのだ。

ヒロは健に「おじちゃん」と呼ばれるのが、とても恥ずかしい。だって、ヒロはまだ高校生なんだから。健が生まれた時、ヒロは小学6年生だった。姉は結婚後、ダンナの仕事の関係で家を出て、北海道に居を構えた。ただし、お産は実家に帰ってすると予め決めており、出産予定日が近づくと、一人で帰ってきた。そして、健を隣町の産院で生んだ。健が生まれると、オムツが毎日庭に干された。ヒロは友達の女の子によく聞かれた。

「ヒロくんのおうち、赤ちゃんが生まれたの? 弟、妹?」

「ちがうよ。姉ちゃんが生んだんだよ!」

「へー、そうなんだ。じゃあ、ヒロ君はおじちゃんになったんだ」

おじちゃん、という言葉は、当時のヒロにとっては、おじいちゃんと、同義語みたいなものだった。だから、なんで、もっと早く生んでくれなかったのかと親をうらめしく思った。

 

いきなり、姉の大きな声がした。

「ほらー!、もう出てるじゃない!もう、やだー!なんでちゃんとチッチって、言えないのーっ!」

姉貴の大きな声がしたと思うと、うぁーん!と幼児の泣く声がする。

これが、下の子で、名前は千鶴(ちずる)、ちいちゃん。2歳のやんちゃな女の子だ。

居間に入ると姉がちいちゃんのオムツを替えようとしているところだった。

姉は、千鶴を横にして、胸におおきなアップリケのついたロンパースの股のホックを外した。中からは可愛い柄のオムツカバーが現れた。姉がカバーの横羽を広げ、股あてを開くと、もうぐっしょりおしっこで濡れたオレンジ色のミッフィーちゃんのオムツが露になった。

「もうしょうがないわね」

姉は濡れたオムツを開き、片手で千鶴の両足を持ち上げた。そして濡れたオムツをカバーといっしょに外すと、おしりをピシャっと叩いた。

「うぁーん」

一旦泣き止んだ千鶴が、また泣き出した。姉は、てきぱきと彼女にオムツを当てなおし、ロンパースの股のホックを止め終えると、

「今度は、ちゃんと、教えるのよ」

そう言うと、彼女を抱き起こして立たせ、オムツで膨らんだ娘のお尻を、ポンッ、と叩いた。千鶴はもうケロッとしている。テレビでは彼女の好きな幼児番組の真最中、彼女はすぐに夢中になった。

姉は今、千鶴のトイレトレーニングの真最中。時間を見ては娘をトイレに連れて行こうとしているんだけど、これがなかなかうまくいかないみたい。母を手伝って台所で夕食の準備をしていて、千鶴をトイレに連れていくタイミングがちょっとずれたようだ。気付いて彼女のオムツをみたら、もうおしっこが出ちゃってたらしい。

姉がヒロに気づいた。

「あら、ヒロ、お帰り。お腹すいたでしょ?もうちょっと待ってね、すぐにごはんの支度ができるから」

 

家族そろってのにぎやかな夕食の後、ヒロが自室にいると、姉が階段を上がってきて、ヒロの部屋のドアを叩いた。

「ヒロ、電話よ」

バドミントン部の中尾だった。明日、急遽練習試合で県立N高に行く事になったので朝9時に学校集合とのこと。

楽しみにしていた泉とのデートはおあずけとなった。ヒロは直ぐに泉に電話を入れた。呼び出し音が3回ほどして、中年の女性らしい人が受話器を取った。

「もしもし、高橋でございますが。あ、山上君?ちょっと待ってね。泉!泉ッ!電話よーっ!」

ヒロが受話器を耳に当てたまま彼女を待っていると、受話器の向こうで小学生か幼児くらいの男の子の声と、赤ん坊の泣き声がする。いま、電話に出たのは、泉のお母さん。ヒロは彼女とは電話で話したことはあるが、会った事はない。彼女の家族環境もイマイチよく分からない。そもそも、泉と付き合いだして1年になるのに、ヒロはまだ、彼女の家に行った事がないのだ。彼女にはお父さんはいないらしいが、それ以外は不明。彼女があまり話したがらないのだ。

「ヒロ君、ごめん、待たせちゃった。どうしたの?」

ヒロは、急に決まった練習試合のために、明日の映画に行けなくなったこととデートの予定をあさって日曜日に延期する提案を彼女に伝えた。

「わかったわ、じゃああさっての同じ時間に同じ場所ね。オーケイ!」

−よかった、泉がふくれなくて−

ヒロはほっとして、受話器を置いた。

 

日曜日は朝から雨だった。

ヒロは待ち合わせ場所の駅構内で、腕時計を見た。時計は既に10時を廻っている。待ち合わせ時間は10時なのに、泉はまだ姿を現さない。普段は時間をきっちり守るのに、今日に限って、いったいどうしたんだろう。

ヒロは携帯で電話を入れようかと思ったが、思いとどまった。

−もう5分、待ってみよう−

ヒロは携帯を持っているが、泉は持っていない。電話をするとしたら、彼女の家電(いえでん)になる。ヒロが迷っていると、家にいる姉から携帯に電話が入った。

「モシモシ、あ、ヒロ?今ね、泉ちゃんからこっちに電話があって、急に今日は行かれなくなりました、って伝言を頼まれたの。」

「わかった」

姉は泉のことは知っている。もっとも、知っているとはいっても、電話で話をしたことがある、というだけのことだが。でも、少なくともヒロと泉の交際については肯定的に見てくれている。

ヒロは姉からの電話を切ると、すぐに泉に電話を入れた。受話器を取った泉の声が、沈んでいた。

「ヒロ君、ごめんね。今日、いかれなくなっちゃった」

それだけ言うと、泉は、声がつまってしまって、ただ、しゃくりあげるだけになってしまった。

「何かあったんだね。とにかく、これから君の家に行く」

彼女が、何か言おうとしたのを、さえぎってそれだけ言うと、ヒロは電話を切った。

何か、突発的なアクシデントがあったようだ。彼女の家には行った事がないけど、場所は知っている。駅のすぐ近くだ。

 

泉の家は、駅前商店街の裏通りに入ったところにあった。木造2階建てで、1階はどうやら飲食店のようだ、「いずみ」と書いた暖簾が下がっている。

−お母さんが、お店をやっているのか!−

店の脇の小路を入ると、裏口玄関があった。

なにげなく、上の方を見上げると、2階の軒先にオムツが干してある。

−やっぱり、赤ちゃんがいるのか。泉の弟か、妹なのかな−

ヒロはそんなことを思いつつ、呼び鈴を押した。ドアが開いて、出てきたのは、泉だった。

「あっ!ヒロ君!?..... 来ちゃったのね」

泉の戸惑うような眼差しから、ヒロにには、来て欲しくなかったのにとの泉の思いが見て取れた。ほんの数秒だったが、ヒロにしてみれば、長く感じられたひと時だった。

「どうぞ、上がって」

「おじゃまします」

ヒロは靴を脱いだ。すごく緊張していた。だって、初めて泉の家に入ったんだもの。

家の中は、狭い裏口玄関を入ると直ぐ前を廊下が横切っていて、右奥はトイレ、左はお店に通じている。そして入り口の左側がすぐ2階に上がる階段になっている。

−ここをあがったところが、泉の部屋なんだろうか−

正面の障子を開けて、泉に続いてヒロも中に入った。ミルクの甘い香りがした、赤ちゃんのにおいだ。

部屋は二間続きになっていて、裏口玄関に面した部屋は十畳ほどの和室。テレビ、ラジカセにパソコンが置いてある。決して豪華ではないが、きれいに片付けられている。奥の部屋の様子もちらりと見えたが、こちらはお母さんの寝室のようだ。ベビーベッドの足らしきものが見える。たぶん、ここに赤ちゃんが寝かされているのだろう。

「どうぞ、座って」

泉に座布団をすすめられ、ヒロは腰を下ろした。泉も座った。

「うち、狭いでしょう」

ヒロは、それには答えず、

「どうして、僕の携帯に連絡してくれなかったの?」

ヒロは、泉を咎めるつもりはなかったが、直接、自分に連絡をしてくれなかったことが、ちょっと不満だった。

「ごめん!ホントにごめん。」

二人がだまったままでいると、隣の部屋から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

「泉、泉」

お母さんらしき人の、泉を呼ぶ声がする。

「はーい」

泉が隣の部屋に入って行った。

「どなたかいらしたの?」

「山上君」

「あら、そうなの。ごめんなさいね。こんな状態じゃ、はずかしくて、おまえの彼氏の顔見られないわね。あんまり落ち着かないだろうけど、ゆっくりしてもらってちょうだい。あと、すまないんだけど、ちょっと、真央(まお)をお願い。母さん、まだ動けないの。動くとまだ目が回るのよ。」

「わかったわ」

泉が泣き叫ぶ赤ん坊を抱いて、あやしながらこちらの部屋に出てきた。

「よーし、よし、いい子ね。はいはい、泣かないの、泣かないの」

泉は、さっきまで自分が座っていた座布団に赤ん坊を寝かすと、ロンパースの太腿の股ぐりに指を入れた。赤ん坊は泣き続けている。

泉は、再び隣の部屋に行くと、オムツカバーと布オムツをもって戻ってきた。

ヒロは、泉がこれから何をしようとしているのかがわかると、ちょっと心臓がどきどきしてきた。

泉は、赤ん坊のロンパースの股ボタンをはずすと、あらわになったオムツカバーのマジックテープをべリべりと剥がし始めた。中からはピンク色の動物柄のついたオムツが露になった。ぐっしょり濡れている。泉は、赤ん坊の両足を片手で持ち上げて、おしっこまみれのオムツをカバーごとお尻から引き出すと、片手でそれを丸めて自分の足元に置いた。そして、さっき持ってきたカバーに乾いたオムツを乗せるとそれを赤ん坊のお尻に差込んだ。股布を通してカバーの前宛てを重ね、横羽根をおなかの上で合わせると、ロンパースの股ボタンを閉じた。泉のオムツ換えは、まるで姉のそれのように、手際が良かった。

−この子、本当に16歳?―

ヒロはただ唖然として、泉の所作を見ていた。

赤ん坊は、お尻がさっぱりしたはずなのに、まだぐずっている。

「はい、はい、お腹がすいたのね。いまミルク作ってあげるね」

彼女は、部屋の反対側に面したキッチンに消え、5,6分ほどでミルクの入った哺乳瓶を持って現れた。赤ん坊を膝に乗せ哺乳瓶の乳首を赤ん坊の口に含ませた。

赤ん坊がすごい勢いでミルクを飲み始めたのを見て、泉はくすっと笑った。ヒロは、その彼女のしぐさが、とても美しく見えた。泉は、ヒロの視線を感じたのか、顔を上げて、ヒロの顔を見た。そしてまた、くすん、と微笑んで、言った。

「ヒロ君には、まだ、話してなかったわよね。この子、私の妹なの。名前は真央。間もなく4ヶ月になるわ。」

真央ちゃんがミルクを飲み終えると、泉は彼女を抱き上げ背中を軽くポン、ポンと叩いた。

しばらく抱いて揺すっていると、真央ちゃんは眠ってしまった。

泉は、彼女を抱いて奥の部屋へ行き、ベビーベッドに寝かせた。

「お母さん、私たち、2階の部屋にいるね」

「確か冷蔵庫に、ケーキがあったはずなんだけど、持ってって二人で食べてね」

「わかった。さっ、ヒロ君、上の私の部屋に行こっ」

泉に誘われて立ち上がったときに、ヒロは臍の下の部分から股にかけて違和感を覚えた。ヒロは恥ずかしさで、顔が真っ赤になった。パンツが濡れているのだ。さっきのオムツ交換を見ていて、無意識のうちに射精してしまっていたのだ。

−どうしよう、泉には、知られたくない。でも、ここで帰るわけには行かないし...−

「ヒロ君、どうしたの?」

ヒロが躊躇している間に、彼女は階段を上がりきり、上からヒロを見下ろしていた。

「な、なんでもない。」

階段を上がる時、ヒロはガニ股になってしまった。

彼女の部屋は6畳の和室、ベッドと学習机に本棚が2つ入っているので人が2人入ると、ほぼ飽和状態だ。泉は、学習机の椅子をヒロにすすめ、自分はベッドに腰をおろした。

「泉は、えらいんだね。幼い妹の面倒をちゃんと見ることが出来るんだから。」

「兄弟は、実はあの子だけじゃないの。もう一人、いるのよ。哲也(てつや)っていうんだけど。小学校4年生で、今日は少年野球の練習日で学校に行っているの。実は、夜中から、お母さんが具合が悪くなっちゃったので、私が代わりをしなくちゃならなくなっちゃったの。だから今日は朝から、哲也の朝ごはんとお弁当を作って、真央の面倒をみて....。ほんとうにごめんなさい」

「ううん、謝らなくていいんだよ。それに、映画はまだ暫くやってるから、また機会があるさ。でも、なんで僕に直接連絡くれなかったの。」

「一度は、携帯に電話したんだよ。でも、電話にでられません、って音声が流れたの。ヒロ君、私とのデート、楽しみにしてたでしょ。私もよ。でも、昨日はヒロ君が都合悪くなっちゃったでしょ。だから今日こそは、って私も思ってたの。でも、それがまたためになっちゃったから、悔しくて、涙が出たの。」

「今、こうやってデートしてるじゃないか。映画は見られなかったけど、泉とたくさん、話ができているじゃない。僕は、うれしいよ。泉の家は初めてだし。やさしそうな、お母さんじゃないか。それで、お母さんの具合はどうなの?」

「目が廻ってしまって立てなくなっちゃったの。昔から、ときどきこうなるの。病院では、メニエル病だって言われたわ。原因はわからないらしい。命に関わるような深刻なものではないんだけど、困るのは、発作が出ると何も出来なくなっちゃうこと。子供達の面倒をみるどころか、自分でおトイレにも行かれなくなっちゃうのよ。」

「大変なんだね。でも、すごいや。僕にはとても、まねできないよ。家には2歳の姪がいるけど、僕はオムツなんて換えられないし、ミルクなんてとても作れないよ。」

すると、泉は、くすっと笑って言った。

「男の子は、しかたないわよ。.....でも、わたしだって最初からできたわけじゃないよ。」

泉の口元から、微笑が消えた。

「最初は、すごくやだった。弟が生まれた時は、私はまだ7つだったから、兄弟ができて嬉しい気持ちもあった。でも、真央の時は、複雑だった。ヒロ君分かったと思うけど、うちは居酒屋をやっていて、お母さんがおかみをしているのよ。店にはいろんなお客さんがくるわ。中には、酔った勢いで、お母さんに言い寄る人もけっこういるの。お母さんは、その人が好みのタイプだと、遅くまでお酒の相手をするの。」

泉はだんだん早口になった。

「そんなときは店を閉めた後、一緒に外に飲みに行くの。そして朝になるまで帰ってこない。そんな時、どんなとこで、どんなことをしてるのかはだいたい想像がつくわ。だって、その結果が私であり、哲也であり、真央なんだから。私たち兄弟三人は、みんなお父さんが違うのよ。しかも私も、弟たちも皆お父さんの顔を知らないのよ。私のお母さんは、そういう人なの。私はそういう人の子供なのよ!不潔!お母さんなんて、大っきらい!」

泉は、大粒の涙を流して叫ぶと、いきなりヒロに抱きついた。

ヒロは、あまりにも唐突な出来事にびっくりした。ただ自分の胸に顔をうずめて泣きじゃくる泉の頭をなでるだけだった。

どれくらい、そうしていただろうか。泉はようやく落ち着きを取り戻した。

ヒロは、泉の顔を両手で挟むと、瞳を見つめた。彼女の美しい瞳が涙で濡れている。

ヒロは彼女に顔を近づけ、唇にそっとくちづけをした。

 

泉の体が硬直しているのがわかる。

ヒロのあそこも硬直している。ヒロは思わず、彼女のスカートの中に手をいれた。彼女もヒロのズボンのチャックを下ろし、中に手を入れてきた。

「あれ、ヒロ君、どうしたの。ここ、濡れてるよ」

彼女が言葉を発するのと、ヒロが、しまった、と思ったのがほとんど同時だった。

泉が真央ちゃんのオムツを替えるのを見てるときに漏らした白いオシッコがまだ乾かないのに、今、泉を抱きしめている時にまた「オモラシ」をしてしまったのだ。パンツがべちょべちょで、気持ちが悪い。

ヒロは、恥ずかしくて、彼女の顔が見られなかった。

「オモラシ、しちゃったのね」

「ごめん、でも、おしっこじゃないよ!男の子は、女の子のことを考えると、みんなこうなるんだ」

ヒロは、必死になって弁解しようとした。額に汗が吹き出ているのが自分でもわかった。

穴があったら入りたい。よりによって彼女に射精がばれてしまうなんて...

ヒロは、泉に軽蔑されたと思った。

ところが、泉の反応は違った。彼女はヒロのズボンから手を抜くと、指先の臭いを嗅いだ。

「くちゃいっ!」

一瞬ちょっと顔をしかめた後、くすっと笑った。

「もう、しょうがないわね」

泉は、棒立ちの状態のヒロの前に立膝になると、泉はヒロのズボンのベルトに手をかけた。

「なっ、何すんだよ。やめろよ。やめてっ!い、泉ってば」

泉は、ヒロの抵抗を無視して彼のズボンを下ろしにかかった。ヒロは、彼女の唐突な行動におどろき、ズボンを押さえようとしたが、間に合わなかった。びしょびしょのパンツが露になった。

「こんなびっしょりのパンツでいたら、風邪をひいてしまうでしょ!お着替えしなきゃだめ」

泉のしぐさと物言いは、まるで、オモラシしてしまった坊やに対するお母さんのそれだった。高校3年のヒロが2歳年下の彼女に、オモラシの後始末をされている。ヒロは恥ずかしさで顔がほてるのを感じた。

泉はヒロのパンツに手をかけて、膝まで下ろした。

「はい、あんよあげて!」「こんどは反対。....そうそう、いい子ね」

彼女は、もう完全にお母さんモード。ヒロは、もう完全にされるままになっていた。

泉は、汚れたヒロのパンツを丸めると、自分の足元に置いた。

「さてと、困ったわね。何を着せようかしら。ヒロ君、どうする?私のパンツ、穿く?それとも....」

「ズボンだけでいいよ。パンツはなくとも大丈夫だから...」

「だめよ、今度オモラシしたら、ズボンが汚れてしまうでしょ」

「もう、オモラシなんてしないよ。それに、あれはおしっこじゃなくて....」

「男の子は、好きな女の子のことを考えると、ぬるぬるのオモラシになっちゃうんでしょ。ということは、私と一緒にいるんだから、また、ぬるぬるのオシッコが出ちゃうかもしれないじゃない。そうだ、こうしましょ。」

泉は、押入れの襖を開けると、何やら下着のようなものを出してきた。

「これ穿こうよ。ヒロ君のヌルヌルのオシッコは、私のパンツじゃ吸収しきれないから。」

泉がヒロに見せたのは、紙オムツみたいなものだった。ピンク地に花柄の模様が一面にプリントされている。ヒロはまた、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「や、やだよ。オムツなんて、恥ずかしい。」

「これは、オムツじゃないわよ。女の子が生理になったとき使うものよ。」

「い、いいよ、やだよ。恥ずかしいもん。」

「だめ、これを穿きなさい!はい、あんよ上げて!」

泉は、いきなりこわいママになった。ヒロはもう逆らえなかった。下半身すっぽんぽんのまま、彼女のなすがままにされていた。紙オムツを穿かされ、その上から、ズボンを穿かされた。

「はい、いい子ね。じゃ、おやつにしましょう。ちょっと待っててね、ケーキとコーヒー、持ってくるから。」

泉が下へ降りていき、ヒロは泉の部屋に一人っきりになった。

泉に穿かされた紙オムツ、はき心地は悪くない。泉も使う下着を着けているという感覚も手伝って、オムツにオ○ン○ンの先がこすれると、ガマン汁が出ているようにも思える。オ○ン○ンは完全に硬直したままだ。ちょっと刺激を加えるとまた、射精してしまいそう。

 

しばらくすると、泉が、ケーキとコーヒーを持って、部屋に入ってきた。

「おまたせ」

泉は、さっきのこわいママからいつもの泉にもどっていた。

その後、ヒロと泉の間で、会話が弾んだ。まるで、喫茶店「何処」にいるときのように。映画の事、音楽の事、部活の事。いままで何度となく同じような話をしているはずなのに、飽きない。

しばらくすると、お互い話しつかれたのか、会話がふと、途切れた。

泉が言った。

「私、いつも思ってた。お兄さんが欲しいって。」

「僕も思ってた。可愛い妹が欲しいって」

「ヒロ君は、やさしいお姉さんが、いるじゃない。」

泉は姉貴に会ったことは無いが、電話では何度か話をしている。その印象から、すごくやさしい人だと思い込んでいるようだ。

−ホントはだいぶ、違うんだけどな。−

「13年も歳が離れていると、兄弟と言う感じはしないな。むしろ、口うるさいおふくろが2人いる、って感じだもの。」

「でも、いいじゃない。私は、年下の兄弟ばっかりだよ。お母さんがいそがしかったりすると、私が、哲也や真央の面倒をみなければならないんだから。お母さんは常に忙しくて、私と向き合ってくれる時間なんかなかった。」

ヒロは、泉の気持ちが、なんとなく分かるような気がした。それと同時に、2つ年下の泉に、自分にないたくましさを感じた。

「泉、僕は君の恋人のつもりだけど、君のお兄ちゃんもやったげる」

「ほんと!?」

「ああ」

「お兄ちゃん!」

泉はまた、ヒロに抱きついてきた。ヒロも彼女を抱きしめた。泉の髪は、シャンプーのいい香りがした。

「甘えても、いい?」

「ああ、いいよ」

「お兄ちゃん、抱っこして!」

ヒロは、彼女を抱き上げた。思ったほどは、重くない。そのままベッドに腰を下ろし、彼女を抱きなおそうとしたとき、手の親指が泉のスカートに引っかかった。スカートがめくれ、中の下着にヒロの腕が当たった。ヒロがふと、目を落とすと、白地に人気の少女漫画のキャラクターがプリントされた、小さい女の子が穿くようなショーツが目に入った。泉は、うっとりした目つきになっている。小さい時からいつもしっかりしたおねえちゃんであることを要求され、親になかなか甘えられなかった泉...、ヒロは彼女が一層いじらしく思えた。

しばらくして気がつくと、ヒロの腕の中で、泉は眠ってしまっていた。その寝顔は、幸福と安堵に満ちた、やさしそうな表情をしていた。ヒロは、泉を起こすのがかわいそうで、しばらくじっとしていたが、さすがのヒロも腕がだんだん疲れてきた。

ヒロは、彼女を起こさないように、そっとベッドに降ろそうとした。

すると、泉の表情が急にけわしくなり、まるで、赤ん坊がむずかって泣き出すときのような顔になった。

「ううん、やー、抱っこぉ...」

仕方なくヒロは彼女を抱きなおし、ベッドの背もたれに自分の身をゆだねた。

 

どれくらい、経っただろうか?

ヒロも泉につられ、いつの間にかまどろんでいた。

窓の外を見ると、もう雨は上がり、西日が雲の中から顔をのぞかせている。

ズボンが生暖かくなっているのに気がついて、はっと我に帰った。

−また、おもらし!?−

でも、泉のお尻に当てている手のひらがなまぬるい。

−もしや、泉?−

ヒロが動いたら、泉が目を覚ました。

「やだ、私ったら、いつのまにか寝ちゃった...えっ、あっ!やだ」

「泉....」

「やだ、ヒロ君、みないで!」

泉は起き上がってヒロから離れると、真っ赤な顔を両手で覆って、しゃがみこんでしまった。ヒロは、思わず視線を自分の股の部分に移した。しっかりしみが太腿の内側の部分にできちゃっている。

「私、どうしちゃったんだろ!おしっこ、もらしちゃうなんて、やだ!恥ずかしい!どうして?」

泉は、両手で顔を覆ってしくしく泣き出した。その姿は、まるで、幼い少女だ。ヒロは、ベッドから腰を下ろし、泉をもう一度、抱き寄せようとした。

「いやっ!、だめっ!私にさわらないで!」

泉の強い拒否にあい、ヒロは一瞬たじろいだが、思い直して再びさっきより強く、彼女を抱き寄せた。今度は彼女は抵抗しなかった。ヒロの胸に顔をうずめ、しくしく泣き続けている。

「泉...泉ちゃん。このままじゃ、風邪を引いてしまうから、着替えようね。僕はちょっと、おトイレに行って来るから、ね。あ、そういえば、おトイレは、玄関の右のつきあたりだよね?」

ヒロは、彼女に着替える時間を与えるために、場所を外そうと思ったのだ。

泉は、こくん、と頷いた。

 

ヒロがトイレを済ませて部屋に戻ると、泉は着替えを終えてベッドに座り込んでいた。

「ヒロ君、ごめんね。私、すごく恥ずかしいところをみられちゃった。私の事、嫌いに....なっちゃった...でしょ!?」

彼女はそれだけ言うと、また、両手で、顔を覆った。

「嫌いになんかならないよ。だって、これで、おあいこだもの。さっきは、僕がおもらししたし.....」

「でも、ヒロ君のは本当のおしっこじゃないでしょ。私のは本当のおしっこだもの」

「いいかい、泉。僕は、君のお兄ちゃんなんだよ。お兄ちゃんが妹の面倒を見るのは、あたりまえじゃないか。泉は、僕というお兄ちゃんができたんで、気が緩んだんだよ。安心したんだよ。おもらししちゃったからといって、妹を嫌いになるお兄ちゃんが、どこにいるの?こんなことで僕は、君を嫌いになったりしないよ」

泉は、ニコっと微笑んだ。

「ところで、泉はいままでにおねしょとか、したことあるの?」

泉は、恥ずかしそうに、こっくり頷いた。頻繁ではないが、時々やってしまうとのこと。

実は、ヒロにもオネショ癖がある。小さい時はしょっちゅう布団に地図を書いていた。さすがに中学生になってからは減ったけれど、完全に治ったわけじゃない。高校生になってからも、何度か失敗したことがある。

ヒロは、この「ひみつ」を泉に打ち明けた。

「なんだ。お兄ちゃんも、おもらしさんなんだ。」

泉は、ちょっと安心したような顔をして、さっきよりもにっこりと微笑んだ。

 

そうこうしているうちに、泉の部屋のハト時計が4時を告げた。

「あっ!もうこんな時間だ。帰らなきゃ」

「うん。また明日ね。あ!明日は部活あるの?」

「うん、こんど部活がないのは水曜日なんだ。いつもの時間に、また「何処」で」

「わかった、ばいばい、お兄ちゃん。」

ヒロは、泉をもう一度抱きしめると、もう一度口づけをした。

 

駅前のバス停まで、泉はヒロを送ってきた。

バスが来るのが見えると。泉はヒロの耳元にささやいた。

「おもらししたら、直ぐにちゃんと取り替えなきゃダメよ」

「はい、はい、わかったよ。ちっちゃなお母さん」

お返しにヒロも、彼女の耳元でささやいた。

 

バスが動き出した。

夕日を浴びて眩しく輝く泉の姿が、だんだん小さくなっていった。