フィクションノンフィクション 59




 

              
  不思議な体験
 

 
 「僕、オムツ、大丈夫?濡れてない?」

 「うん。」
 
 「そう、じゃあオムチュ濡れたらママに教えてね。」

 「うん。」
 
 と言いながらもママは時々僕の可愛いベビー柄のオムツカバーの股の所から手を入れてオムツが濡れていないか 確か

めるんです。
 
 

 こういう会話を聞くと、普通僕はまだオムツの取れない小さな赤ちゃん、でもママのお話は分かっているみたいだからもう

みっつ かよっつ位のちょっとオムツ離れの遅い幼児かと思うかもしれませんね。

 でも実は僕はオムツをしているけど、29歳の大人なんです。良い年をした大人なのに、未だにオムツが取れなくて 毎日オ

ムツにオモラシしては、ママ(実は僕の奥さん)に赤ちゃんのように両足を持ち上げられてオムツ交換をしてもらっているんで

す。

 と言う事は、僕はオムツの赤ちゃんでは無くて、結婚していて実は子供も1人いるんです。もう4歳の可愛い女の子 なんで

す。勿論子供は僕のオムツの事を知っているし、僕のオムツ交換の時はいつも新しい替えの布オムツを 両手に抱えて持っ

てきてお手伝いしてくれたりします。

 実はご近所の人はみんな僕が毎日オムツを当てている事を知っていて、僕のオムツはご近所公認なんです。

 ですから毎日2階のベランダには僕の汚したくさんの布オムツや大きなオムツカバーが洗濯されて隠しもせずに堂々と干

されているんです。オムツだけでなく大きなベビーロンパースや大きな涎掛けまでが堂々と干されているんです。

 干されているオムツの中には、近所の人からもらった小さな赤ん坊のおフルのオムツも有るんです。

 普通下着のおフルを人にあげるなんて言う事は無いでしょうけど、布オムツの場合はどうせ大小便を受ける物でいたみも

早いので使う枚数も多いことから昔から結構オムツの使いまわしはされています。でも小さな赤ん坊の使ったおフルの布オ

ムツを大人の赤ん坊が使うと言うのはほとんど無いと思います。

 お出かけの時にはママに大きなベビーカーに乗せられて外出をしますが、そんな僕を見掛けたご近所の人は大抵僕の

所まで来るとベビーカーを覗いて、僕に話しかけあやして行くんです。 ご近所には、僕が事故の後遺症で知能が幼児程度

になってしまったと説明をされている為に、今では近所の誰もが僕を赤ん坊扱いするんです。

 ですからいくら身体は大きくてもご近所の奥さん達は僕の事をいつまでもオムツの取れない大きな赤ちゃんとしての意識し

かないみたいです。

 でも実際はオムツを当てていつもオモラシをしている割には、僕の頭はまともなんです。

 そして僕の奥さんは勿論そんな事は全て承知なんです。

 では何故まともな大人がオムツを当てて赤ちゃんの格好までしている事がご近所にまで公認となっているのか。

 何故僕がこうなってしまったのかはこれから説明します。
 

 もともと子供の頃から、オムツやオムツの赤ちゃんに興味が有り、結婚すれば何とか僕の奥さんになる人を説得してオム

ツを公認してもらい僕のママになってもらって甘えたい等と考えていたんです。

 でも、25歳で彼女が出来て結婚したのですが、結局彼女との交際中もそして結婚直前に最後のチャンスかと思って彼女

に打ち明け様と思ったんですが、彼女の顔を見ている間に言えなくなってしまい、打ち明けるのは別に結婚してからでも良

いやと先伸ばしの悪い性格の部分がでてしまい打ち明けられなかったんです。でも、結婚後も妻には結局オムツの事は何

も打ち明けられる事が出来ず、何もしないままにそのまま時間だけが経ってしまい、しかも結婚して一年経つと子供まで出

来てしまいました。

 子供が出来れば当然オムツが家の中にいつも有るようになるわけで、そうなれば子供のオムツにこじつけてなんとか自

分もママに甘えてなんとかオムツもとは思ったんですが、結局なかなか言葉にもまた実行も出来ずいつももやもやとしなが

ら、毎日妻が子供のオムツを交換するのをうらやましげに見ている内に半年が過ぎてしまったんです。

 いつも子供のオムツ交換やベランダに干されたオムツをうらやましげに見ていたらいつか気が付いてくれるかもしれない

等とも思ってみましたが、別に何も言ってくれませんでした。
 

 そんなある日曜日、まだ6カ月の子供をベビーカーに乗せて散歩をしていた時に、誤って足を踏み外して神社の石段から

滑ってベビーカーもろとも石段の下まで落ちてしまったんです。遠回りをしてスロープから上れば良かったのにそれが面倒

でベビーカーを抱いて石段を上がっていたんです。

 あっと思ったその後はもう意識は無くて、次に意識を取り戻したのは病院のベッドの中でした。

 でも、病院のベッドの中で意識を取り戻したのは良いのですが、しかし何かおかしいんです。

 意識が戻ってしばらくの間、ボケーっとしていた頭と目が次第に周囲に慣れて来てはっきりするに従って、今の自分の状

態が分かってきたんですが、その時になって初めて自分がどうやら病院のベッドの上にいるらしい事、子供と散歩をしてい

てベビーカー毎石段を下まで転げ落ちた事等を徐々に思い出してきました。

 あまり高くは無い石段とは言え、十何段かの石段から落ちた割には身体があまりいたくない所を見ると怪我らしい怪我は

していないのかもしれないと思いながら寝返りをうとうとした途端に思わず足の痛みにうなってしまいました。

 うなったはずだったんです。ところが僕の耳に聞こえるのはどうやら赤ん坊の泣き声のような声が聞こえるんです。

 最初、同じ部屋に赤ん坊がいるのかと思い思わず首を横に動かして見ました。でも不思議な事に赤ん坊の泣き声はなん

と自分自身の口から出ていたんです。

 あまりの事でびっくりしました。訳が分かりませんでした。

 もう一度声を出して見ましたが、やはり赤ん坊のう〜う〜、あ〜あ〜と言うような声しか聞こえてこないんです。

 何が何だか訳が分からず、大きな声で叫びました。

 『助けてくれ〜。一体どうなっているんだ。』

 しかしやはり口から出てくる言葉は赤ん坊のような声でしかありませんでした。首も上には起せず、自分の身体を確かめ

る事も出来ませんでした。痛みが無いにも係わらず手を上げて見ることも出来ませんでした。何で声が出ないのか、いや出

ても何故赤ん坊の泣き声のような声しか出ないのか全くわかりません。

 訳も分からず突然声が出なくなったような物です。一つ救いであったのは、今いる所が病院であった事です。少し待てば

直に医者か看護婦さんが来てくれるに違いない。取りあえず身体の動かない今は、病室に来てくれるのを待つしかないと思

いました。
 

 とその時、病室に看護婦さんが入ってきました。正直助かったと思いました。顔を上には上げれなかったけど、横向きに

は少し動かす事が出来ました。だから病室に入ってきた看護婦さんに助けを求め様としたんですが、やはり自分の口から

出てくる言葉は言葉にはならず、しかも大人の声ではなく、先ほどと同じ赤ん坊のような声でしかありませんでした。折角病

室に看護婦さんが入ってきたのに、その看護婦さんに助けを求める事が出来ないなんて。どうすれば良いのか頭の中は混

乱するばかりでした。

 そして、病室に入ってきたその看護婦さんは、まるで赤ん坊に対するような話し方で話しかけてきたんです。
 

 「よし、よし、痛いねえ。でも僕は男の子だから我慢、ね。おりこうね。今ママはパパのところに行ってるからちょっと待って

てね。ママはお用事が済んだら直に僕のところへ戻ってくるからね。おりこうさんで待ってようね。」

 「う〜、う〜、あ〜ん、・・・・・・。」

 「困ったわね?。オムツが濡れてるのかな?それともお腹好いてオッパイ欲しくなったのかな。」

 「 ・・・・・・。 」

 この看護婦さんは何を言っているんだろう。まるで僕がまだオムツの取れない赤ん坊のような話し方をするけど。

 一体本当にどうなっているんだ。思わず看護婦さんに話しかけました。

 『僕の声が出ないんですよ。一体どうしたんでしょう。』

 ところが耳に聞こえてくるのは、やはり赤ん坊のう?う?あ?あ?と言うような声しか聞こえてこないんです。

 『あ〜、やっぱり声が出ない。』

 あまりの事に驚きながらも、きっと事故のショックで一時的に声が出ないだけでそのうちに又出るようになるさと自分自身

を慰めるように自分自身に言い聞かせていました。
 

 その時です。看護婦さんが僕の側にくると突然抱き上げて赤ん坊のようにあやし始めたんです。

 
 「ほら、あばばばば?。良い子ね?。」

 「 ・・・・・・?? 」

 一瞬びっくりしました。何故??

 男としては小柄な方とは言っても、男ですから身長160cm体重も50kgは有るんです。いくら大柄な女性でもそう簡単に持

ちあがる大きさでも重さでも無いはずなんです。それに看護婦さん自身見たところそんなに大きな方でもなく僕とあまり変ら

ないくらいの体つきです。

 ところがその看護婦さんは僕の身体を軽々と両手で簡単に持ち上げたんです。しかも身体は看護婦さんの両手の中に

すっぽりと収まっているんです。またまた僕はビックリしました。何でいくらなんでも身長160cm体重も50kgの僕をこんなに

簡単に持ち上げられるんだ。それより何で僕の身体は看護婦さんの両手の中に収まっているんだ?

 結果導かれる結論はただ一つだけでした。僕の身体が看護婦さんの両手の中に収まるほど小さいと言う事です。

 しかし、なんで僕の身体がこんなに小さいんだ。訳が分かりません。確かに僕は子供と散歩に出ていて神社の石段から子

供と一緒に落ちたんです。で気が付いたら病院のベッドの中にいた。そこまでは理解できました。でも何でベッドの中の自分

がこんなに小さいのか、いいえ恐らく僕の身体は赤ん坊位の大きさになっている、いやひょっとしたら赤ん坊そのものになっ

ているんじゃあないか。

 そうだとすれば僕の声が出ない原因、出るには出るけど、でも出る声が赤ん坊の泣き声のような声しか出ない事の説明

がつきます。でも、そんな事が、そんな事が・・・・、僕は自分自身の恐ろしいような想像に恐怖で気が狂いそうなくらいのパ

ニックに陥りました。

 でも、そんな僕の耳に響くのは大きな大きな赤ん坊の泣き声だったんです。

 そして僕はそんな自分自身の泣き声におびえるように更に、更に大きく泣きつづけました。

 『僕は、僕は一体どうなってしまったんだあ。一体何がどうなってるんだあ〜。』

 「おぎゃあ〜、おぎゃあ〜、うえ〜ん、うえ〜ん。」

 「あらあら、どうしたのかしら。オムツも濡れていないし、オッパイも飲まないし。やっぱりママがいないと駄目なのかしら。

ちょっとこの泣き方は異常だわ。おかあさん、お願いだから早く帰ってきて?。」

 「おぎゃあ〜、おぎゃあ〜、うえ〜ん、うえ〜ん。」
 
 「はい、はい、すぐにママ帰ってくるからおとなしく待ってようね。ほ〜ら、良い子、良い子。」

 「おぎゃあ〜、おぎゃあ〜、う、う、うえ〜ん、うえ〜ん。」
 
 「そんなに泣くとまたオシッコでちゃうわよ。」

 「う、うわ〜ん、うわ〜ん、うえ〜ん。」

 看護婦さんが懸命に僕をあやす言葉も僕の耳には入りませんでした。

 僕は何故突然僕の身体が赤ん坊に代わってしまったのか、しかし現実に僕の身体は赤ん坊の大きさになってしまっており

女性の看護婦さんが身長160cm体重も50kgの筈の僕の身体を軽々と持ち上げて、しかも腕の中にすっぽりと抱っこされて

いるんです。この現実は自分自身嫌がおうでも認めざるをえませんでした。

 しかも突然の身の代わり様に驚き、成す術も無く、落胆し、悲しみに打ちひしがれている僕の泣き声は嫌でも赤ん坊の泣

き声として僕自身の耳に入ってきました。

 やがて泣きつかれた僕は、看護婦さんに抱っこされたまま寝てしまったようでした。

 目が覚めた時は再び1人病室のベッドに寝ていましたから。
 

 その頃隣の病棟の整形外科の病室では、1人の男が病室のベッドに寝ていました。隣の病棟とは言っても廊下でつながっ

ているので歩いて3分ほどしか離れていなかったんですが。

 そして、ベッドの側には彼の奥さんらしい女性が涙で目を腫らしながら立っていました。
 

 「あなた、一体どうしたの?何か言ってよ。」

 「 ・・・・・。 」

 「ねえ、お願いだから何か話して、・・・・。 お願い。 ・・・・・。」

 「 ・・・・・。 」

 「ねえ、お願い・・・。お願いだから・・・・・。しく、しく。」

 「 ・・・・・。 」
 

 ベッドで寝ている男性は別に、意識が無いわけではなくて目もしっかりと開けてにこにこ笑顔なんですが、どうやら周囲の

状況から見て言葉を話さないようです。しかも話さないだけでなくどうやら周りの人の会話は勿論、彼の奥さんの言葉も理解

出来ていないようです。

 その時病室のドアを開けて、看護婦さんが片手に乾いた布オムツの束を持って入ってきました。

 そしてその布オムツを椅子の上に置くと、
 

 「オムツ交換の時間なんで、オムツ見ますね。」

 「は、はい、・・・・・。お願いします。」
 

 どうやらその男性は動く事が出来ないみたいだけでなく、失禁もするようでオムツを当てられている様子です。

 看護婦さんが男性の毛布をはねのけると、男性のお尻に当てられた薄いブルーのオムツカバーが当られていました。看

護婦さんは慣れた手付きでオムツカバーを外し、濡れたオムツをオムツカバー毎引き外すと、新しいオムツとオムツカバー

に交換して再び病室を出て行きました。
 

 「ねえ〜、あなた、お願いだから何か話して?。」

 「 ・・・・・。 」

 「ねえ〜、お願いよ〜。」

 「う〜、う、う、?〜。」

 「あ、あなた〜、・・・・・・。」
 

 女性はそのベッドの男性の反応を見て無き崩れました。

 そう彼は6カ月になる自分の子供をベビーカーに乗せて神社の境内を散歩していて、誤って神社の石段から落ちてしまっ

たパパだったんです。

 二日程して小さな赤ん坊の方がママの要請もあってパパと同じ病室に移されました。

 同じ部屋に身体の大きさの違う赤ん坊が2人ベッドの上に寝ています。でもママは1人。

 身体は大きくてもやる事成す事は全て赤ん坊のパパと、身体は小さいのにおとなしくて聞き分けの良い赤ん坊の2人、そ

の2人のオムツを替えながらママは少し落ちつきを取り戻してきていました。

 日が経つに連れ2人の赤ん坊もの怪我も良くなり、2人とも段々と元気を取り戻してきていました。ただ小さな赤ん坊の方

が時々遠くを見つめて寂しそうな顔をしているのを、まだママも誰も気付きませんでした。
 

 身体は赤ん坊の身体で意識は大人の赤ん坊と、身体は大人なのに意識は赤ん坊の大人が1人づつ、そう2人の親子は

何故か理由は分からないけれど、石段から落ちたのがキッカケに意識がお互いに入れ替わってしまったんです。

 こんな不思議な事が世の中にあるのかどうかは分かりませんが、でも確かにこの2人、6カ月の赤ん坊と26歳のパパの意

識が入れ替わってしまったのは事実です。

 だから赤ん坊の意識を持ったパパは言葉の機能は持っていても本人の意識自体が言葉を話せないし、オシッコも自分で

は出来ないからオムツを当てていなければ駄目なんです。

 そしてパパの意識を持った赤ん坊の方も当然意識は大人であっても、身体自体が赤ん坊の機能しか無いために当然言

葉は話せないし、オシッコも自分では出来ないから結局オムツなんです。

 かと言ってそのままの経過で、初めに書いたようにパパの意識を持った赤ん坊がやがて大きくなってママとお話していた

のではありません。

 結局、お話の出来ないパパの意識を持った赤ん坊はママも含めて周囲の人になんの説明も出来無いままに事故以来ち

ょっと変ったわねと言う位で、1ヶ月程して、怪我が治ると元気にママに抱っこされて退院していったのです。

 そして赤ん坊の意識を持ったパパの方も車椅子に乗って退院して行きました。
 

 そして赤ん坊の意識を持ったパパの方は、周囲の人には当然何も説明出来ない為に、事故のショックで脳が6カ月の赤

ん坊の知能程度に退行してしまって、しかもさしあたり今の医療技術では治療法無しと説明づけされてしまいお尻にはオム

ツ、首からは涎掛けを付けたままの格好で大きな赤ん坊として病院を退院する事になってしまったんです。

 ですから退院後の生活も、勿論赤ん坊そのままの生活で、大きな赤ん坊と小さな赤ん坊と今まで1人だった赤ん坊がが一

度に2人になってしまったママの奮闘が始まりました。

 ただ不思議な事に小さな赤ん坊はすごく聞き分けも有りおとなしいのに、大きな赤ん坊の方は本当の赤ん坊の様にぐずっ

たり泣いたりといろいろと世話が焼けると言う事で、ママは何か変だわと思う事も有ったんですが。